色々なお客がいるんですよ
突然、ATMコーナーの方から「ぎゃあああ!」という奇声が聞こえた。私は一瞬、誰か刺されたのか?と思った。その場にいたお客様も含めて、全員が目を合わせる。
自分のいるところから外を見ても、その現場は見えない。フロア入口に飾ってある巨大なクマのぬいぐるみが「ありがとうございました」と札を掲げているところしか見えない。
自分も含む店員数人が、防犯カメラでATMの様子を見る。男が一人、ATMの画面を覗きこみながら、なにやら踊って騒いでいる。まだ「うわあああ」とか「ぎょええええ」とか聞こえてくる。
自分「…なんすか、これは?」
他の人「あーこの人か、この間も騒いでたなあ」
自分「この間も、って……」
役席「とりあえず、様子見てきます」
役席が一人、果敢にATMコーナーへ向かった。
自分はその後、しばし他の仕事でカメラを見ていられなかったのだが、恐らく勇敢な役席は「どうかしましたか?」と声をかけていたのであろう。ロビーのお客様は用が終わるなり逃げるように去っていく。
ロビーの自動ドアが開いて人が入ってきたので、仕事しつつ「いらっしゃいませ」と声をかける自分。男が一人、「さっきの○○って男の人(役席)いる?」と言ってきた。あっ、さっきの騒いでた人じゃん! 役席はそこにいたので、彼もすぐ気がついた。
あのな、俺はここに用があるわけじゃないんだよ、だけどな、いつも使ってた銀行が無くなっちゃってな、振込をここでするしかないんだけど、毎月毎月やってるから機械(の操作の仕方)なんか分かってるし、こっちから聞くことなんか無いんだよ。用がある時はこっちからこうやって話しかけるから、いちいち出てくんな。いいか、こないだ掃除してるおばちゃんにも言ったけどな、今度やったらそこのクマちゃん持って帰るからな? いいか、忘れるな。
実際はもっと長いセリフだったと思う。役席も困っていて、相槌を打って謝るだけ。じゃあ踊ったり奇声をあげて他のお客様を追い返すのはぜひとも止めて頂きたい、とは流石に言えなかったご様子。
それにしても、彼は掃除のおばちゃんにまで「クマちゃん持って帰るぞ」などと言ったのだろうか。というか、そもそもただクマちゃんが欲しかったのか? その後、彼の事が話題になったことはないし、見かけることは無かったのだった。
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